02.PISA2018の結果について考察~本当に読解力は下がったのか~
2019年12月3日、OECDが国際学力調査(PISA)の2018年度の結果を公表しました。
その結果、日本の中学生の「読解力」の結果が8位(3年前の結果)から15位にまで転落していました。
それに対し、各種メディアが「日本の中学生の読解力が下がった」と騒ぎ立て、その原因は「本を読まなくなっているから」だとか「SNSの弊害」だとかと好き放題言っています。
しかしはっきり言ってそれらの指摘はすべて的外れだと、ここに断言しましょう。
丁寧にデータを読み解けば分かりますが、そもそも、「書かれている内容を理解する」という意味での「読解力」なら低下などしていません。
以下、そもそもPISAではかる「読解力」って何なの?という話からきちんと説明します。
1.前提:「読解力」の定義について
日本(の国語教育)でいう読解力と、PISAでいう読解力とは定義がかなり異なります。
日本で、読解とは「書かれているものを理解すること」というニュアンスで使われます。
そこに「自分がどう思ったか」(=解釈)とか「その文章をどう活用するか」(=情報活用能力)などは含まれません。
しかしPISAの読解力(Reading Literacy)には後者も含まれています。
その点で日本における読解力とはかなり異なったニュアンスで使われています。
このことはPISAが導入されてからずっと指摘されていて、
国語教育の世界ではPISAの読解力のことを「PISA型読解力」と呼んで差別化しています。
2.データ:PISA型読解力の3観点ごとの今回のスコア
PISA型読解力では以下の3つの観点を測定しています。
①情報を探し出す
②理解する
③評価し、熟考する
前述のとおり、日本で一般にいう読解力は②だけで、①③は含まれません。
しかしPISA型読解力では①~③を含めているのです。
そしてそれぞれの今回のスコアですが、
文部科学省・国立教育政策研究所が発表した資料によると次のように示されています。(p.4)
http://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/pdf/2018/01_point.pdf
※マーカーは筆者がつけました。
3.考察:データから読み取れること
注目すべきは「②理解する」のスコアは「安定的に高い」という点です。
つまり、書かれていることを理解する、という意味での読解力であれば低下などしていないということです。
同時に、①や③はこれまで日本の国語教育が長年手薄だった部分ですので、そこが改めて浮かび上がったのだと、筆者は思っています。
そのことを考えると、クローズアップされるべきは②ではなく①と③の部分でしょう。
そして①と③は新学習指導要領の「思考力・判断力・表現力等」にかなり密接にかかわる部分です。
この領域の指導を充実させることが日本の国語教育の急務だと再認識する、1つのきっかけにすべきだろうと、筆者は思います。
4.結論
・PISA2018のデータから日本の中学生の読解力が落ちたと判断するのは尚早だろう。
・そんなことよりも日本の国語教育における「思考力・判断力・表現力等」の指導の不足を再認識すべき。
蛇足ですが
今回のPISAの読解力テストには「必要な情報がどのWebサイトに記載されているか推測し探し出す」問題が出題され、日本の中学生はその点数が低かったようです。
今回僕が上にあげた資料は文科省のHPに載っていたものですが、「読解力がさがったのは本を読んでいないからだ~」などと指摘している大人たちは、恐らくこの情報にたどり着けなかった人たちだと思います。
ということは、そういう批判をしている人ほど「必要な情報がどのWebサイトに記載されているか推測し探し出す」問題を解いたら同じように低いスコアを出すんだろうなと思います。
かなり皮肉な状況ですね(笑)
まあそんな皮肉はおいといて、もう少し国語教育についての正しい知識が流布される世の中になればいいなあと思います。